ひな百合手記

関係性と悲鳴と考察

愛城華恋が『王冠』である意味について

 

 スタァライトの主幹を担う愛城華恋と神楽ひかり。その象徴にはそれぞれ『王冠』と『光(煌めき)』と呼ぶべきであろう髪留めが存在します。2人の『運命』の象徴、約束を証明し続ける物。これはキャラクターの記号化としても必要不可欠なアイテムであることは、皆さんもご存じでしょう。

 でもこれって、何だかおかしな点がありませんか?

  まず神楽ひかりの髪留めが『』であることは当然です。だって名前が『ひかり』でそのままなので、幼い日の愛城もきっと名前から選んだのだろうな〜と予想できます。メタ的に言ってもキャラクターの記号として使用されるシンボルですし、それくらいシンプルな理由の方がいいでしょう……では、愛城はどうでしょうか?

 

 アニメ全12話に舞台2作品、さらにスタリラを合わせても愛城華恋と王冠を結びつける情報はパッと見存在しません。むしろ名前から取るなら『ハート』『』『』などの方が適切に思えます。あれだけ強烈な一文字、愛と恋で挟んだあの名前。ますます『王冠』である必要性が感じられなくなります。ついでに言えばフローラの髪留めも『』です。

 では愛城華恋が『王冠』であることは脚本の空白、つまりは特に意味を持たない概念なのでしょうか。

 いいえ、そうも思えません。スタァライトは暗喩や比喩のカラクリ箱のような作品です。神楽ひかりには意味が掛かっていたのですから、こちらも意味があると見て良いはずでしょう。 

 今回のブログはその『愛城華恋が王冠である理由』についてです。

 

 なおここで語ることは筆者の経験や趣味に基づいた解釈であり、公式にそうなのかを保証するものではありません。ですが、たとえ回収されなくとも「こういう紐付けができるから私はこれで妄想するからな」という狂人の決意表明ではあります。ほら一緒にキメましょう、幻覚を……だって幻覚を見るの、楽しいので……ほら……………

 というわけで早速トリップしていきましょう。

 

 

スタァライトとタロット》

※この章は前置きなので、既にこの仮説をご存知の方は読み飛ばしてください。

 

 

 

  さて、皆さんご存じの通り戯曲:スタァライトという概念はが舞台であり、それをメインテーマにした少女☆歌劇レヴュースタァライトという物語もまた、塔によって始まり塔に帰結した物語です。物語を貫く柱と言ってもよいでしょう。

 そこで、ヒントが見つからない愛城華恋と『王冠』を繋ぐ中継地点としてを、とりわけ『星罪の塔』と関連が深いと考えられるタロットを経由するとします。

 というわけでまずは『塔』のカード説明(諸解釈あり)がこちら。

 

『塔』

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 タロットカードの『塔』というカードは78枚で1デッキとなるタロットの中でも軸となる22枚の大アルカナ(残りは小アルカナと呼びトランプに酷似)と呼ばれるカードで、その16番目のカードです。

 描かれた図面は雷、すなわち神の力が塔を破壊する場面で、『バベルの塔』がモチーフであると言われることが多いです。その悲劇的な意味からタロットカードの中でも珍しい正位置も逆位置も等しくネガティブになりやすく、かつ強力なカードとして扱う存在でもあります。

正位置の意味

破壊、破滅、突然の崩壊、災害、悲劇、戦意喪失

逆位置の意味

不安定、緊張状態、崩壊寸前、いつか来る終わり

  このように塔とは神話としても創作の題材としても有名なバベルの塔である、という解釈がタロットにおいては基本とされることが多くあります。そしてこれは「人が神に近づくために手を伸ばした罪とその罰」であり、まさしく戯曲:スタァライトのモチーフにピッタリであると言えるでしょう。

 

 しかし同時に、その圧倒的な破壊力を逆手に取ってどんな悪い状況も破壊してリセットする(再スタートさせる)という解釈もされるのがこのカードの面白いところでもあります。そう、つまりは愛城華恋のアタシ再生産』の象徴でもあるのです。

  この他にも大場ななと『悪魔』舞台少女と『星』、さらには神楽ひかりとキリストや賽の河原などの関連が論じられますが、王冠にはあまり関与しないので今回は省略します。

 

 

 

スタァライトと王冠について》

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 さて、以上のようにタロットカードスタァライトとの関わりが深いです。そして実はその歴史において、タロットとはカバラ(数秘術)の根幹——セフィロトに対応していると考える説が存在しています。

セフィロト

10個のセフィラのこと。またはセフィロトの樹(生命の樹)のこと。セフィロトは、この世のありとあらゆる存在・森羅万象をあらわし、この10個のセフィラで分類されぬものは無いといわれている。(コトバンクより引用)

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セフィロトを構成する各セフィラと配置、その名称をまとめた図(Wikipediaより引用)。頂点のケテルから出発しマルクトをゴールとして表されている。

 これがセフィロトです。簡単に説明すると、頂点にあるケテル(神の力)が各セフィラを順番に通り濾過され、最後には人間の領域であるマルクトへとその力が流れていくことを表しています。そしてセフィラ同士を結ぶラインが、タロットと対応していると唱えられた箇所で、一本につき一枚の大アルカナが割り当てられました。

 Fateでアヴィケブロン先生が求めたゴーレム・ケテルマルクトもこれで、意味合いとしてはA to Zで『全』を表すような感覚かと思います。セフィロトという単語自体は様々なコンテンツに出てきますが、ユグドラシルなどの関連にもえるような巨木のイメージなんですよね、実は。まあ北欧のあちらほど「木です!!!!!!」とアピールするよりわけでなくもっと概念的な樹形図的な意味合いではありますが……。

 

 閑話休題

 

 さてこのセフィロトで最も注目していただきたいのは頂点のセフィラ。つまりは降りてくる神の力(ケテル)とは王冠であることです。

 思い出してみてください、愛城華恋の王冠が登場するシーンを。

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 落下し、少女に絶大な力を与える燃料となる王冠。

 まさしく『アタシ再生産』の象徴です。

 本来、王冠というシンボルが落下して溶鉱炉にポチャン……という状況は、縁起がいいとは言えません。なにせ正直に受け取れば、これは王権が失墜するような図でしかなく、それこそまさしく『塔』のネガティブな破滅です。

 しかし、これが『神の力(ケテル)』のシンボルであるならば話は別です。なぜならセフィロトにおける神の力は、落下してくるものだからです。

 王冠は落下してこなくてはいけません。

 そうでないと、天上の星のままだから。

 王冠は燃料でなくてはいけません。

 マルクトに流れ込むケテルは、移動の間に変質し、人間になんとか扱えるようになったものなのです。

 古来より、神の力とは人の手に余る存在であり、直接扱うことはできないとされてきました。その代表例がです。神が雷を落とし、その副産物として豊穣や火を人は賜る。そういった考えが各地の神話にあるのは確かでしょう。

 そしてその雷が、タロットの中でも特に『塔』をセフィロトと結びつけます。

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明るい色彩が特徴とされ、最初に庶民に定着し占いブームを起こしたというマルセイユ版タロットカードの『塔』。一説には、タロットは初めは貴族の間で行う『絵画の解釈をするゲーム』であったされる。

 最初に挙げたウェイト版『塔』に比べると、ずいぶん明るい印象を持つと思います。このイラストは『バベル(神の家)』というカード。塔に落ちる雷を、神罰でなく神の恵みとして——つまりは塔を神の力が下りてくる場所として解釈しています

info.il-lume.tokyo

 引用したサイトにもあるように、マルセイユにおいてはなんだか不思議なワサワサが太陽から塔へと降りてきていて、同時に巨大な王冠が塔先端へ被さってきています。この王冠こそが神の力であると考えられるのではないでしょうか?

 また同時に、『神の家』とは「神の力が降り注いだことにより、この塔そのものが高次元の存在になっている」という解釈も存在しており、塔が『神の力を伝える橋』とも解釈されることがあるのです。そう『橋』、つまりはブリッジです。

 

 愛城華恋が大事を成す前にその力の燃料となり、また、敗北したときでさえも遥か塔の上方から落下し、すべてをひっくり返す『塔』を打ち建てたあの王冠。ではその王冠は、どういった経緯で彼女の手に渡ったのだったか。それはあの東京タワーにおいて神楽ひかり——「神をその身におろす場所や巫女」という意味の『神楽』を戴く少女にもたらされた物。そう、の中でによって渡された王冠なのです。

 そしてだからこそ愛城華恋は、周囲へとディスコミュニケーションにも似た不和(バベルの塔)を呼び、しかしそれを結果的にはプラスへと導き、同時に『塔(約束タワー)』を自由に、それを『橋』にすら転用できるのではないでしょうか。

 

 まさしくセフィロトの物語を駆け上がる少女。

 故に公式は『王冠』を愛城華恋のシンボルとした。そう私は解釈しています。

 

 なぜ『セフィロトの物語』だと断言できるのか? ……だってカバラ(数秘術)はアヴィケブロン先生のようなゴーレム魔術としても有名で、スタァライトにはそれに類するような正体不明のヒトガタが、存在するのですから。

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……というか、もう他に愛城華恋が『王冠』でる理由が本当に思いつかないので他の候補あったらコメント等で教えてほしいです。最初に書いた通り「脚本の人そこまで考えてないと思うよ」はまず有り得ないので。ブログにしてくれてもいいよ! この記事も引用してくれて構わないので、お願いします……

 

 

 

 

おまけ

 このようにセフィロトにおけるケテルへと至っている愛城華恋。

 しかし『スタァライト』における女神はどれも性質が反転——つまりは負の側面を体現していました。ではそれは、セフィロトという塔のような樹木を登るフローラには、絶対に適用されないのでしょうか? ……いいえ、そんなことはないはずです。

 なぜならセフィロトには対となる悪魔と不均衡の世界——クリフォトが存在するのですから。

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 それはセフィロトとは真逆の人に身近な表層、キムラヌートというから堕ちゆく樹木の道。

 また、近年のFGOなどにおいては人類を愛した結果人類を滅ぼす獣に対応する、人の持つ愛とエゴの負の側面。人類悪のベースです。

 から始まりに終わる名を持ち、誰より危険な激昂(エゴ)を持つ少女にとってこれほどカバラが似合うのは、偶然でしょうか?

 私にはどちらとも断言できません。

 ただ、私は『#1激昂』の愛城華恋が、『逆境のオリオン』の愛城華恋が、そして「ノンノンだよ」という否定の口癖が孕む危うさを。見ないフリをしてはいけないと……覚悟した方が良いのかもしれません。

 

 

参考資料

タロットの歴史―西洋文化史から図像を読み解く

タロットの歴史―西洋文化史から図像を読み解く